俺、あーいうのホント大ッ嫌いだった。
お前なんか全然親しくねーよ、気安く呼ぶな、みたいに。
いや、昔だけじゃなくて、今も嫌いだ。
でも雄也は違う。
もちろん特別な関係であるから、名前を呼ばれて不快に思うことは無いけど。
アイツも、最初は「黒崎くん」だったんだ。
礼儀をわきまえた奴、そんな印象を受けたのを覚えてる。
高校で再会して、大学も一緒になって、
「黒崎先輩」と呼ばれることが辛くなったのは、いつ頃からだっけ。
不快じゃなくて、辛くて切なかった。
距離を感じる呼び方だ、そう思った。
“下の名前で呼んで”
願うようになったのは、いつ頃からだっけ。
ぼんやり考えながら、少し乱れたベッドで寝返りを打つ。
こんなこと、考えたこと無かったのにな。
今何時だろ。
サイドテーブルの時計に目をやる。
……雄也が買い物に出かけて、1時間弱。
一緒に行くかと誘われたけど、眠くて遠慮した。
そろそろ、帰ってくるかなぁ。
アイツ、帰ってきたらきっと「ちとせー」って言う。
そんで俺を見て、まだ寝てたの?とか言って、
俺はアイツの首に腕を回して、アイツは少し屈んでキスをする。
俺の髪を乱しながら、耳元で低く囁くんだ。
「ちとせ」って。
もっと。もっと呼んで。
俺の名前、もっと呼んで、お前だけが。
シーツを掴んで身体を丸めた。
早く帰って来て。名前呼んで。
玄関のドアが開く音がした。
空気の振動が、アイツの香りと声を伝える。
「ちとせー、ただいまー。もう起きてる?」
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