ついさっきまで、それほど酷い雨風ではなかった。
それが今は、窓に水流が激突してる。
こんなになると思わなかったから、車は駅に置きっ放しだ。
この中を駅まで歩いて…いや、外出たくない。
「これって今夜いっぱい続くんかな」
「じゃねーの?天気予報見れば?」
「泊めてね」
「いーよ別に」
ギターを爪弾くコイツの隣で、テレビのチャンネルを変える。
ちょうど夕方のニュース番組内で、簡単な晩御飯のおかずの
レシピが紹介されているところだった。
ぅあ、ヤバイ。
思ったときにはもう遅く、コイツの視線はテレビ画面へ。
「…腹減った、なんか作って」
「おっまえ客人にメシ作らせんなよ!」
「じゃ泊めない」
予想通りの展開。あーあ、傍若無人。
泊めてもらうんだから、文句は言えないってことか。
「じゃ台所借りるわ」
「ん、よろしくー」
「作ったもん残すんじゃねーぞ」
「どうかなソレは」
うん、腹立つなコイツ。
びちゃびちゃになって、吹き飛ばされそうになって、
どんだけ振り回されようが抵抗できない。
顔だけこっちに振り返って、俺に話しかける。
「明日の空、楽しみだな」
「あ?なんで」
「キレーじゃん、台風の後」
焦げるような熱と、どこまでも続く澄んだ青空。
「あぁ、そっか」
ソレって、なんか。
なんていうか。
「…お前みたい」
「え、なに?」
「なんでもない」
美味しい、って言う満足気なその笑顔がさ。
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