放課後、いつもより急いで帰り支度をしながら、
俺は隣りの机に腰掛けるたつきに話しかける。
「いや、読み方はそうだけど、お前の“俊樹”って書いて“たつき”」
「あー、これはな。当て字にも程があるってな」
「普通、“としき”って言わない?」
俺だって最初に名簿見たとき、この字が“たつき”と読むなんて想像出来なかった。
「そうなんだけどね、親は何考えてんだか」
苦笑しながら俺を待つたつきを見ながら、でもやっぱり、
「でもカッコいいなぁ、当て字とか…」
「そーかぁ?」
「俺なんて“あゆみ”だよ?漢字は良いけど、女みたいじゃん!
男ならフツー“あゆむ”だよね」
なんで漢字は普通に“歩”なのに、読みが“あゆみ”?
当て字でもなんでもないけどさ、あゆみなんて、
某カリスマ女性シンガーにもいるし、ますます女っぽい。
「一般的にはね。ま、いーじゃん」
「ぇえ〜」
「……タツキ、アユミ…音、一緒だしさ」
いきなり、真っ直ぐ俺を見るから。
音?音が一緒だからって、確かに一緒だけど、
だからって………な、なに?
「ぉ、お前と一緒ったって……」
自分の名前に対する不満は消えない。
だけど高鳴る鼓動、赤く染まる頬。
なにこれ、俺、なんか変?
嬉しかったのかな、なんとなく。
自分の名前を認めてもらえたような気がして。
嬉しかったのかな。
「ま、一緒なんですわ。…そんだけ」
「なっんだよソレ!」
「なに、これ以上なにを期待してたの」
「知らないよ!もう!」
ふて腐れた俺の頬をつんつん、とつついて言う。
「じゃあ今日、うちには来ないのかな」
「………」
「ん?」
「…行くよっ」
じゃ、行こう、あゆみくん。
振り返って微笑むたつきの顔がすっごく好きで。
名前の音だけでもいい、一緒なら。
だけどもっと、一緒を増やしていきたい。
時間も笑顔も言葉も気持ちも。
たつきは、どう思ってる?
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