白いシンプルなふたつの紙コップを細い赤い糸が繋ぐ。
子供の頃、何度か遊んだ記憶がある。
あの頃は糸で声が伝わる不思議さに魅了された。
「…遊んでみる?」
「えー?…いーよ別に」
「じゃなんで作ったのさ」
「なんとなく。童心に返って」
俺は苦笑しながら、コップをひとつ手に取る。
口元にあて、あー、と声を出してみても、
籠った音がコップ内に響くだけ。
相手がいないと成り立たねー。
「なぁ、ほらそっち持ちな」
俺の様子を無言で見つめていたちとせに、
テーブルに置かれたままの紙コップを指して言う。
ちとせはゆっくり手を伸ばしてコップを掴み、
少し迷ったようにしてから耳元に持って行った。
俺は糸がピンと張る位置にまで少し移動する。
「あーあー、聞こえますかー」
「聞こえるよ」
ふふ、と小さく笑いながら答える。
「ちとせも喋るときはコップに向かって」
「はい」
「返事短いよ、糸電話じゃつまんねってソレ」
「だって、なに話すの」
「なんでもいーじゃん、今日あったこととかさぁ」
そう言うと、少し間を置いて。
「…好き」
「…え?」
糸を伝って俺の耳に届く微かな声。
俺は、コップに向かって返事をするのを忘れてた。
「大好き、雄也」
ちとせは少し離れた場所で、赤く染まる顔を隠すように、
両手でコップを口元にあてて再び囁く。
その眼は、真っ直ぐに俺を見つめて。
僅かな振動と熱が、耳元と心臓をくすぐる。
突然のムードに戸惑っていると、ちとせがニッと悪戯ぽく笑った。
「はい、サービス終わりね」
「サ」
「お腹空いたから早くなんか作ってー!!」
「ちょ、急にでっけぇ声出すなよ!ビビるわ!!」
真面目にドキドキした自分がバカみたいに思えるくらい、
2人の空気はいつもの軽い調子に戻っていた。
糸電話って、こんなに心臓に悪いものだったっけ?
直接囁かれたことだって、今まで何度もあった。
だけど、これはこれで…ねぇ、まさに
“繋がってる”って感じ?
ケータイとかより、ずっと刺激的。
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