旅行にしては多い、引っ越しにしては少ない荷物を、
部屋を歩き回りながらまとめる雄也を見つめてた。
衣類や本、食器や少しの調味料。
次々と段ボールに詰めていく。
俺はリビングの小さなテーブルに腰掛けている。
「まぁ、こんなもんかな」
ほんの少しだけ物が減った部屋を見渡し、雄也が言う。
雄也のものが大方かたづけられた。
まるで雄也がこの部屋からいなくなるみたいだ。
「…水樹ちゃん、何日くらいいんの」
「一週間。結構長いよね」
「ふーん」
水樹ちゃんてのは、雄也の中学生の妹。
夏休みを利用して、地元からこっちに遊びに来るらしい。
まぁよくあること。プチ旅行みたいな?
だけど雄也は数ヵ月前から俺と一緒に暮らしてて、
まだあいつの部屋は引き払ってないんだけど、
実質今の雄也は俺の部屋に「住んでる」。
当然、合鍵だって作って渡してある。
でも妹が来るとなったら話は別。
ほとんど空っぽの雄也の部屋を、少しでも元に戻さなきゃならない。
それで、荷造り。
「…別れるみてー俺ら」
「なにバカ言ってんだよ、ちとせ」
「うん」
もちろん別れなんかじゃないけど。
ただ少しの間、雄也が家に“帰る”だけだ。
いつもふたりで住んでたこの部屋を、離れて。
ほんの僅かな期間のことなのに。
俺はもともとひとりで住むことに慣れてたのに。
「…帰ってきてよ」
「…もちろん」
なんだか大袈裟かも知れない。
たかが一週間。
だけどこの部屋はもう、ふたりの部屋なんだ。
俺はもう、雄也とふたりでいたい人間なんだ。
だから、行ってらっしゃい。
PR