「もー雄也、今度から自分で資料集めろよ」
ソファで他の論文を読んでいるはずの雄也に振り返って言う。
「学部違うし俺、あんま余裕無いんだか…」
寝てるし。
コイツ〜…。
俺超ひとりごとじゃん!
ぅりっ、と、クリップで留めた紙の束を雄也の顔に押しつけてやる。
「ぁ〜…」
「起きろよ!」
「…ぁにー…」
「資料!」
唇が動く感触が、さほど厚くない束越しに手の平に伝わった。
「さんきゅ…」
呻き声に近い返事で、腕を曲げて資料を受け取る。
その緩慢な動作に、間抜けだ、と吹き出しそうになるが、
(だって力の抜け具合がタコみたいなんだもん)
よほど疲れてるんだな、と心配にもなる。
資料を持った手をそのまま腹へ乗せて、
また呼吸音しか聞こえなくなったから話しかけてみた。
「寝る?」
「……おきる…」
「寝れば?」
「……ん…」
これって会話として成り立ってるよな一応。
さっき自分で、起きろ、なんて言っといて変だけど。
雄也の手から資料を取り、傍らのテーブルに置いた。
少しだけ顔をしかめて寝るお前が好き。
ゆっくり、休んで。
面と向かっては照れくさくて言えないから、
代わりにといってはなんだけど、
もう深い眠りに入り出したであろう雄也の鼻の頭に、
軽く、ホントに軽くキスをする。
顔を離したとき、雄也の連れてきたジャガーさんが、
毛布に戯れついてるのが視界の隅に入った。
もっとふかふかのやつある、そう思って立ち上がり、
寝室に行こうとしたら背後から嫌にしっかりした声。
「…晩メシ、俺作っから」
起きてたのか、あのバカ。
途端に自分の今さっきの行動が思い出されて、赤面した。
「黙って寝てろタコ」
あ、今タコなの俺の方だ。
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