「…く…るし……ッ」
「え?なに聞こえないよ?」
俺の首に重ねた両手に力が籠り、さらに俺は苦痛に顔を歪める。
抵抗しようにも体勢的に不利過ぎる。
力の差も、身体の差も大きくて。
なんでこんなことなってんの?
意味分かんない、なんで俺がコイツに?
「かぁ…っは……」
「離して、って言えるかな?」
「ぁっ…は…なしっ……て…」
そう言うと、両手の力を緩めてくれた。
けほけほ咳き込む俺を見下ろしながら微笑む男。
なんで?
なんでコイツ、俺に……最悪。
「ふぅん、可愛いねアンタ」
「な…に言って…ふざけんな!」
「雄也の…だもんなぁ、勿体ないよ」
俺の上に跨がっているコイツ、菅原慎。
なんでこんなことなってんの?
俺は今日、雄也ん家来てて、でも雄也が買い物思い出して、
大した遠くの店じゃなかったから俺は留守番で。
そしたら菅原がやってきて、雄也いないっつったら、
コイツ、イキナリ俺の首締めて…。
なんで?
「いい声で啼きそー。ね、雄也とどうなの?」
「…ッ…馬ッ鹿じゃねぇの!?」
「どんなことすんの、アイツ」
「関係ねぇだろ!どけよ!」
「はいはい」
やけにアッサリ立ち上がって俺の上から退いた。
あ、リビングでジャガーさんが起きた気配がする。
そのとき、丁度雄也が帰って来た。
「ただいまーってアレ?なんで慎いんの?」
「ちとせ君とお留守番してたー」
雄也が帰って来たのを感知して、ジャガーさんが走り寄ってくる。
さっきの奇妙な空気はもう無い、けど。
けどこの、菅原慎。
「…………」
気持ち悪い変態サドで雄也(とジャガーさん)の前では良い顔する奴。
「え?え?…なんかよく分かんないけど…とりあえず慎帰って?」
「えー!?なんでー」
「俺、今日はちとせと遊ぶの、だから帰って」
「ちぇー。分っかりましたよー」
靴を履いて、ドアの閉まる音。
買い物袋を持ち、廊下を歩いて行く雄也。
俺を見上げたままのジャガーさん。
雄也、俺、アイツにわけわかんないこと…。
恐かった、恐かったよ雄也……。
でも素直にそんなこと言えるはずもなくて、
雄也の服の裾を握ることすら出来なくて。
言葉と感情を飲み込んでジャガーさんを抱き上げたら、
いつもより大人しめに鼻で鳴いて頬に顔を擦り寄せて来た。
犬って、分かっちゃうんだよな、こういうとき。
ありがと、小さくお礼を言って抱いたままリビングに入る。
タートルネックの服で良かった、今日。
きっと首には痣が出来てるから。
俺、ひとりで抱え込めるほど強くない。
でも言う勇気も無い。
大したことじゃないのかも、だけど恐かった。
雄也が知ったらどう思うかな、菅原は友達だもんな。
「…言えない」
ジャガーさんにだけそっと呟いた。
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