「…ココアでも飲む?」
「…カクテル」
「酒ぇ?今から飲んで…」
「大丈夫、飲める」
ココアよりカクテルの方が眠れる。
で、朝起きたら今日のこと忘れてて。
どうか、忘れてますように。
「はい、缶のしかなかったけど」
「さんきゅ」
グラスにも空けず、一気に飲み干した。
熱い液体が喉を通る。
あの、変な感情も一緒に溶かして。
「ちとせ、ちょっと早過ぎね?」
「うん」
「なんかあったの」
「なにも」
次の缶を開けて、また喉に流し込む。
「ちょ、待て、待てってちとせ。
さすがに変だよ、そんな飲み方」
「…変じゃ、ねぇよ」
「おい、なんかおかしいって、どしたんだよ」
あ、もう酔い回ってきた。
そりゃそうだ、俺弱いのにこんな一気に飲んじゃって。
くらくらする。ほわほわして熱くなって、
だんだん、だんだん良い気持ち。
「どーもしないよ?雄也なに心配してんの?」
「あーこんな真っ赤なって…無茶すっから…」
「んーアイツ嫌いー」
「え?誰?」
もうぐでぐでになった俺をベッドに運びながら、雄也は訊く。
「すーがーわーらー」
「アイツ?あぁお前とは合わないかもな、
…なんかあったの」
「もー変態じゃん、苦しいっつーの」
雄也の表情が変わったことに俺が気付くはずがない。
だってもう、口枷は外れてしまった。
ベッドにぽふっ、と寝かされて、くるくる回る、雄也と天井。
「………なに、されたの」
「なにってー、首絞められたりー…」
途端、雄也が俺の襟元をぐいっ、と指先で下げて、
俺の喉元、首筋、そこについた痣が露になった。
「……ッ」
「…雄也」
「…ごめん…」
「…雄也謝んの」
「いや、だって俺…」
「アイツのあの性癖、知ってたの」
「……ごめ…2人にさせるべきじゃなかった…」
あのシチュエーションは仕方ないよ、雄也悪くない。
でもそっか、知ってたのかぁ…。
じゃあアイツが帰った時点で、俺の心配すべきだとか、
なんで今まで何も訊いてくれなかったのかとか、
頭がぼんやりしてて言葉が落ち着かなくて、
結局何も言えないまんまだよ。
なんで雄也とアイツが幼馴染み?
分かんない。
分かんない。
酒で忘れられると思った。
でも記憶は更に頭を支配して、それなのに言葉が出ない。
誰か助けて。
雄也、助けて。
それすら言えずに、ただ泣きたくなるの。
アイツの眼と恐怖が甦って、雄也を探すの。
「ごめん…」
俺を抱き締めてるのは、雄也?
なんで謝ってんだろう。
もう頭が働いてくれない、視界がぼやけてきた。
雄也
雄也
もう何も分からない。
けど、今夜も俺はお前に抱かれて眠るよ。
それだけは、どんなに忘れても辛くても、それだけは。
それしか、ないよ、雄也。
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