多分、ベンチに腰掛けて鞄から文庫本を取り出して、
ぱらぱらとあまり集中する様子もなくページをめくる。
時折目線を上げて、俺が来るであろう方向を見つめ、また本に目を戻す。
脚を組んで、ちょっと貧乏揺すりしたらイライラしてきた証拠。
俺が、来ないから。
ねぇ、今お前の頭ん中で、俺はどれくらい占めてるの?
待ち合わせの時間はもう10分過ぎてる。
俺は時間通りに来てるよ、ただ、
お前の見えない場所から俺はお前を見てる。
ベンチに座って、時計をちらちら確認するお前を。
確認するたび、顔をしかめるのが分かる。
あ、ちょっと怒ってきたかな。
待ち合わせから15分経過。
そろそろ行こうか。
「ちとせ、ごめん遅れて」
「…連絡くらいくれればいいのに」
「ごめん、ケータイ充電切れちゃって。待った?」
「いやー別に、そんなには。
暇だったから本読んでたし」
こういう嘘つくとこ、可愛い。
ホントは本なんかまともに読んでなかったくせに。
俺のことばっか考えてたくせに。
「でも遅かったよ、雄也」
「うん、今日は奢る」
いじわるして待たせてごめん。
それから、俺のこと考えてくれてありがとう。
こうしたらお前の中にいられるんだね、俺。
お前の中が、俺でいっぱいになればいい。
俺のことしか考えられなくなるくらい。
俺のことで苛立つお前。
俺の顔をみてほっとするお前。
お前の全部が、そうなって欲しい。
だからまた、待ち合わせでもしよっか?
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