「つーか一種の防衛本能の表れ?黒って」
探るような目付きで笑いながら言う。
この笑い方、嫌いだ。
眼鏡の奥から不躾な視線を注ぐ男。
防衛本能云々はどうでもよくて、ただ俺は、
なんでこんな奴と雄也が幼馴染みなんだろう、と、
そっちの方が気になったし不愉快だった。
「じゃアンタは、」
「アンタ、じゃない。慎」
「……菅原はさ、黒嫌いなの?」
「嫌いじゃないよ、でも好きでもない」
そんな奴が俺の黒に介入して欲しくない。
俺は黒に特別な意味を感じてるんだから。
雄也が、似合う、って言ったから。
―ちとせは黒だね、何色にも染まらない。
『強さだよ』
そう言って笑ってくれたから。
多分俺は、アイツが傍にいてくれる限り髪の色は変えない。
「俺、黒好きだ」
「へぇ、じゃあ自分に自信が」
「関係ない、黒が好きだ」
俺の黒は、雄也の言うような“強さ”じゃないかも知れない。
確かに、俺は自分に自信がなくて黒を選ぶのかも知れない。
だけど。
無愛想な顔して、でも悲しみのときには、
他のどの色より人々にそっと寄り添ってくれる。
俺はお前の黒になりたいよ、雄也。
何色にも染まらない強い黒。
けど雄也、俺はお前に染められたんだ。
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