「あーマジ腹立つわお前!」
本気で怒らせてしまった。
これまでも俺は我が侭いっぱいだったけど、
コイツはいつも笑って許してくれたから。
今回も大丈夫なんじゃないかって、
ちょっと考えが足りなかった。
こっちが強く出れば向こうはたじろぐし、
言い争いの度に勝ってるつもりだった。
「………」
「今度はだんまりかよ、マジいい加減にしろって」
キツい口調が心臓と脳を圧迫して、視覚が麻痺する。
普段は俺が上に立ってるように感じるのに、
こうしてコイツを怒らせてしまうと泣きたくなる。
結局、甘えてんのは俺のほう。
離れて行かないで、ってすがる気持ちを
誰より強く出してしまうのは、俺のほう。
コイツにだけは嫌われたくないのに。
コイツにだけ、そのままの俺を知って欲しいのに。
自分でも心底嫌になるくらい下手くそで、
不愉快にさせて、でもゴメンが言えない。
一言、それだけで良い。
ちゃんと謝って、またすぐいつも通りに戻って、
笑っていたい。早く、早く。
でももし、許して、もらえなかったら。
「………」
「おい、聞いてんの」
どうしよう、恐い。
コイツに拒絶されることが、すごく恐い。
何も言えずに、酸素を求めて顔を上に向けると、
悲しそうな目があった。
「……ん、わかったもーいい」
―どういう意味だろう。
痺れた頭でぼんやりと考えていた俺は、
自分の視界からひとりの影が消えたことに
気づくのが遅すぎた。
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