「いーじゃん食えりゃ」
シンクの下の戸を開けて小さいボウルを取り出しながら、
俺を見ずに呟くように言う。
髪が落ちてこないようにと、横をヘアピンで留めたお前は
いつもより女みたいに見えて、一瞬、自分の妹を思い出した。
そういやアイツも料理は苦手だったな…。
ま、そーだけど、と軽く答えて冷蔵庫を開ける。
「でもさー前から思ってたんだけどさー、
大学入ってから自炊してる割には上手くなんないね」
「あ、ちょっと野菜室からレタス出して」
「レタスレタスー、ほい」
「どーも。いや、実際あんま作ってないよ」
俺は冷蔵庫から、さっき買ってきた缶ビールを出し、
グラスに注いで一口飲んだ。
「1年ときは結構外食とかコンビニで済ませてたし、
今はお前が作ってくれること多いじゃん。
て、え、お前今日車で来たんじゃないの」
「あー、泊まってく。いい?」
「ん。ウチもペット可で良かったよな、
ジャガーさんも一緒に泊まってけるし」
キッチンカウンター越しにリビングの様子を見ると、
連れてきた愛犬は、大人しくテレビ画面を見つめている。
ニュースでは、少女の殺人事件があった町を中継していた。
灰色のスーツを着た女性リポーターが、重重しい口調で
凄惨な事件の詳細を語っている。
しゅり、と千切られボウルに入れられていくレタスは、
やっぱり大きさがちぐはぐで、みずみずしかった。
料理の味自体は良いんだけどなぁ、と窃笑しながら
俺はリビングに向かい、ジャガーさんの頭を撫でた。
「自分ちみたいに落ち着くよな、ここ」
多分、明日の朝食は俺が準備することになる。
きっとお前は先に起きて、自分しか飲まないコーヒーを淹れ、
俺はベッドの中で、不機嫌そうに空腹を訴えるお前の声を
ぼんやりと聞きながら目を覚ますんだろう。
日曜日の、そんな朝。
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