「すぐ乾くって」
「あんねー、風邪ひくでしょ。ほらおいで、乾かしちゃるから」
「いーよーそんなんー」
「いくねーよ、ほら早く座って」
こういうとこ、強引。
でも別に断わりきる理由ないし。
鏡の前のイスに座らされ、俺自身、
それから後ろに立つコイツと目が合う。
ドライヤーから熱風が送られ、コイツの指が
俺の髪を撫でたり摘み上げたり、半ば乱暴に掻いたり。
「あっついッて!」
「ぁ、ごめんごめん」
濡れて掻き回されて冷えて、熱を与えられて、
だんだん乾いていく。その繰り返し。
「お前、乾かすの下手ー」
「ごめんなー、人のやんの初めてでさ」
「下手くそ」
「はいはい、もうすぐ終わりますよー」
まるで恋愛、みたいだ。
艶っぽく水が滴り、掻き乱され、冷たくなる。
かと思えば火傷しそうな熱で徐々に落ち着く。
それは人によっては倦怠ともとれる、乾き。
「出ー来た。ほらサラッサラ!お前の黒髪!俺うま!」
「ぁーいい感じだ」
「だろ?自然乾燥だとバサバサすんよ。
したら俺、風呂入るわ」
ただ洗うだけじゃダメで。
その後まで丁寧にしてやんなきゃ傷むんだな。
濡れて掻き回されて冷えて、熱を与えられて、
だんだん乾いていく。その繰り返し。
その繰り返しで、艶と潤いのある良質な髪になっていく。
「…明日から、ちょっと頑張ってみよ」
面倒がらず繰り返して一歩ずつ、キレイな恋に。
今日より明日は。明日より明後日は。
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