お前は時折、自分を蔑むように呟く。
「俺は狡くて汚い人間だ」
そんなことないよ、とは俺は言わない。
誰だって狡さはあるし汚い部分もある。
醜くて当然…ほどは思わなくても、
否定できる要素が見つからないんだ。
―人間なんて、そんなもんさ。
とか、悟ったように言うつもりもない。
だけど、いささか怒りにも似た哀しみを覚える。
愛が冷め、離婚しゆく両親を見つめる子供の気持ち。
まったく自分の意思とは関係なしに、周囲が変化する。
そして自分の意思とは関係なしに、
周囲はそれを正当化して日常に溶かし混む。
なす術も無いまま、置き去りにされる理不尽さ。
「俺は、狡い人間だ。いない方が良い」
「誰だって狡い。汚い。醜い。お前だけじゃない」
お前だけじゃない。
なのにお前は、自分だけを悪者にして、
同じく醜悪な人間であるはずの俺から遠ざかろうとする。
お前は俺を置いて、ひとりで消えようとしてる。
「置いてくなよ」
俺をひとりにしないでくれ。
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