『ごめん、今日行けなくなった。研究が長引きそうで、
いつ帰れるか分かんない。夜中かもだし』
大学から帰る途中、地下鉄のホームを出たときに届いたメール。
今日はこの後、ホントは雄也がウチに来る予定で。
最近はテスト期間だったから会ってなかったんだけど、
それも終わってやっと会えるねって。
一緒にメシ食おうって電話したのは昨日の夜。
嘘つき。
雄也はテスト以外にも研究とかあって忙しいらしく、
そのレポートを終えるまでは慌ただしいのは分かってた。
でも『大丈夫、明日は行くから』って言ったじゃん。
仕方ないこともあるって、頭では分かってるけど。
こんなことでムカついて、小さいガキみたいだけど。
『別に良いよ』
それだけ送信して、携帯を閉じてポケットに入れる。
すぐに聞き慣れた着信音が流れて、再び携帯を開く。
「もしもし?怒った?」
不安げな雄也の声。
声が聞けて、嬉しい。
でも遠くて。耳のすぐ側から聞こえるのに。
「別に」
「そっか。…さびしくない?」
「全然。バカじゃないの」
「ははっ、今度埋め合わせすっから。ごめんな」
「ん。じゃあな」
さびしくない?なんて。
答えは分かりきってることを、おどけて訊く。
俺の答えは、別に、とか全然、とか。
いちばんの嘘つきは俺。
いつでも会える。分かってる。
我慢できる。ちょっとくらい。
自分に言い聞かせる理性は嘘つき。
雄也の息遣いが残って紅く染まった耳と、
重く脈打つこの心臓は、下手な言葉より正直。
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