もう11月も末、肌を刺す風が痛い。
日が暮れた後の外出がなかなか億劫になる。
だけど最寄りのコンビニは車で行くには近すぎて、
車内が暖まる前に往復出来てしまいそうだったから、
ガソリンも勿体なくて今こうして二人で歩いてる。
今日は泊まる予定じゃなかったけどなぁ、
泊まってけば、って誘われたら断れなくて。
じゃあ酒飲んで大丈夫だね、って買い出し。
まぁいつものことだしいっか。
そんなことを考えながら信号を見上げたとき、
ちとせが俺の左手を握った…というより、持ち上げた。
「寒いって言ってんじゃん」
「いや言ったよ、俺も寒いって」
「手!」
「て?」
見れば俺の左手を掴む、真っ赤になったむき出しの両手。
コイツ、ポケットに手を入れてたから気付かなかった。
「これは寒いしょ」
「手袋忘れたんだもん」
俺の手袋を外して貸そうとすると、右手を押さえられた。
「いい。かたっぽだけ」
「でもお前、手ぇ真っ赤」
「うん、だから左だけ貸して」
両方借りてしまったら俺が寒いし、かといって、
自分の手の冷たさには耐えられないしで。
遠慮とおねだりを同時にしたんだと思って、
俺は左の手袋だけをちとせに渡した。
ん、と小さく頷いて、左手にはめる姿が可愛い。
そして裸になった俺の左手はポケットに入る。
コイツのひんやりした右手も一緒に。
「ぁんだよー、今日なんか甘えたさん?」
「っさいなぁ、寒ぃんだよ」
暖めるだけなら、別に指絡ませる必要無くね?
だけどそれ言ったらこの右手が逃げてしまいそうで、
俺はもう熱を帯びてきた侵入者を、ただ握り締めた。
玄関先で、確かにコイツは自分の手袋を持っていた、
そんな記憶についても今はとりあえずノーコメント。
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