お前に会いに行く理由。口実。
「CD忘れた」
「またぁー?お前何回目よ」
呆れて笑うお前に、胸が疼く。
ごめんな。また忘れた。
フリをした。
一か月以上前に借りたCD。
そのアーティストが好きで、でももっと大好きな
お前から借りて、返したくなくなったCD。
だけど「返しに行く」と理由をつけて、お前のもとに行く。
そしてその度、「忘れた」。何度も何度も。
近くに行くための、子供染みた、くだらない作戦。
自分のものにするつもりなんかない。
ちゃんと返さなきゃ。思ってる。
だらしない奴と思われるだろうな。
あと何度の「忘れた」に、お前は笑ってくれる?
返せ、と催促もされなくて。
それがなんだか、お前も俺と同じ気持ちなんかな、なんて
都合のイイ方へ頭が向いてしまう。
俺とお前を繋ぐもの。
ただの一枚のCD。
「じゃ、もう返さなくていーよ」
突然の、お前の言葉に凍り付いた。
でも怒ってるような表情じゃなくて、
真意が分からず困惑してどぎまぎする。
「や、ぁ、ごめん次はちゃんと持って来るから」
これも何度言ったセリフだろう。
「んーん、いーよ持ってて。
あれ聴きたくなったら、お前んち行くわ、俺が」
予想もしていなかった言葉。
何も返事出来ずにいると、首を傾げて訊いてきた。
「…それも迷惑、かな」
全然!そんなわけない!!
口に出す代わりに、思いきり首を振ったら、
くしゃっとまたお前が笑った。
お前は俺の作戦に気付いてた?
あの日から、お前が「あの曲聴きたい」と
しょっちゅうウチに来るようになった。
だけど本当に曲を聴くのはたまにで、
いつも「聴く気分じゃなくなった」と言って、
結局俺を外に連れ出して一緒に遊んだりする。
なぁ、もしかして、お前は俺の気持ちに気付いてた?
会いに行く理由。口実。
俺とお前を繋ぐもの。
ただの一枚のCD。
だけどそろそろ、返しても大丈夫だよな?
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