ショーウインドウに映った姿を横目で見ながら、雄也が言う。
少なからず自身の身長を気にしている俺は、ムッとしてしまう。
「俺の前でそゆこと言うの止めてくんない」
「や、んなつもりじゃねーけど」
「そんだけありゃいーじゃん、十分じゃん。
んなデカくなってどうすんのさ」
「んー…や、そうだけど、でもホントもうちょい」
「俺だってデカくなりたい。お前くらい」
お前と少しでも近い場所から世界を見ていたい。
例えば一番近所のコンビニに続く道の標識、
パソコンの横に、無造作に山積みにされた本、
朝、カーテンを開けたとき射し込む日の光も、全部。
「…もー伸びねって。諦めろ」
遠くを見つめ、まだ思案に暮れるお前に吐き捨てる。
風を切るように、歩くスピードが意識して速くなる。
届かないものに対する妬みとか寂しさとか愛しさとか、
そんなのがごちゃ混ぜになった気持ちがバレないように。
なるべくしっかり、顔を上げて何も気に留めてないフリ。
それ以上伸びなくていい。
お前だけ、どんどん違う目線に行って欲しくない。
「ちょ、ちとせ危ね!」
肩を強く引っ張られ、急に焦点が現実に合わさる。
歩行者側の信号は赤、車が目の前を次々と通り過ぎて行く。
「なにムキになっちゃってんの」
ガキ扱いされたようで悔しくて、反論しようと振り向くと、
自分の目線より少し高い位置に苦笑したお前の顔があった。
同じ場所から物事を見つめたいのは、確か。
だけど7cm下から見上げるお前の顔が好きなことも、確か。
誰かを好きになるときに、身長なんか気にならない。
そんなものまったく関係なしであるのは百も承知だけど、
今はどうして、この身長差を愛しいと思うんだろう。
「ムキになんかなってねーよ。今のまんまで良いし俺」
「さっきと言ってること違いませんか」
くっ、と苦笑から微笑みに変わる表情。
同時に信号も青に変わったから、無視して俺は歩き出す。
「やっぱ俺も、こんままでいーや」
たかが7cm。
だけど俺らにとっては、結構……うん、かなり大切な差。
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