マフラーを外しながら、雄也に問いかけた。
ドアの近くに置いてあるキャビネットの上には、
見慣れない陶器のキャンドルポットと、なにか小瓶。
ポットの中で揺らめく蝋燭の炎。
水が張られた上部の皿から香り立つ。
「おかえり。それね、買ってみた」
キッチンから現れた雄也が言う。
「え、もしかしてアロマ…なんとか?」
「そう、アロマオイル」
アロマキャンドルとかお香とか、いろいろあったんだけどーこれが良っかなってー
喋り続ける雄也に、ふーんと適当に相槌打って、
そのアロマオイル一式をまじまじと見つめる。
「リラックス効果があるとか、無いとか」
「どっちだよ」
苦笑して、小瓶を手にとりラベルを読む。
「“Green Apple”…青リンゴ?」
「そ、爽やかでイイ感じでしょ」
「まぁねー、好きだよ」
男でもこうやって、部屋の香りに気を遣うんだなとか、
やっぱりリラックス効果が目的かなとか。
もしかして雄也は俺に安らいで欲しかったのか…
……それとも俺の部屋、変な匂いしてた…?
そんな考えに行き着いて、ちょっと落ち込むけど、
とにかくこれは、雄也の好意には違いないし、
確かにこの香りは悪くない。なかなかだ。
「いー仕事しますねぇ、旦那」
「だろー?褒めて褒めて♪」
デカい身体ですり寄ってくる雄也の頭を撫でて、おでこにチゥ。
そんな赤くなった頬、18の男には似合わねーよっ。
この香りは、もうこの部屋に定住するのかな。
気分で替えることはあっても、落ち着きたいときは、
この“Green Apple”のオイルを垂らすのかな。
雄也が最初に、選んで買ってきてくれたから。
楽しいときも、泣きたいときも、八つ当たりしてしまったときも、
この香りの中で、俺と雄也は触れ合っていくんだね。
爽やかに、甘く、また近付きたくなる。
そんなさりげない距離で。
結局、戻って来る場所へ。
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