「お兄ちゃ…っ」
「ミズキ?え、どした、もしもし?」
「あの、あのねっ…今日、あの…っ」
「えと、ミズキ落ち着け、大丈夫だから」
泣きながら電話をする本人も、申し訳ない気持ちはもちろんある。
だけど止まらないんだ、頼みの綱になってしまった電話。
「あっ…の、ぉ、お母さんがねっ…」
「うん、母さんが?」
「私、彼氏…っ、出来て、こないだ…」
「あ、ミズキに彼氏が出来たんだな、それで母さんが?」
ダイヤルを押すのは突発的に行われる感じ。
気付いたらかけてしまってた。衝動。
頭、まとまらないのに、ただ話が止まらない。
しゃくり上げながら言葉を続ける妹。
「か…彼氏とっ遊んだん、だけど…っ、今日」
「うん」
「それで、ちょっと…あの、門限、ホントっ…ちょっと、だけ」
「うん、破っちゃったんだね」
「も、お母さんっすごい…怒って、あの…」
「別れろ…って?」
「ううん…違う、ただ、怒って…心配っかけ、て」
自分でも情けないことは承知なんだ。
一生懸命言葉を拾って繋いで、なんとか伝えようと。
だけど明確なのはHELPと混乱のみで。
「そりゃ心配するよ、母さんの気持ちは分かるね?」
「うん、分かる…すごく分かるんだだから私どうしよう、
ぁっ、の…私、あの、酷いこと…したっ…お母さん、に」
「落ち着いて、ミズキ、自分をそこまで責めちゃダメだよ」
「……ぅ〜〜!」
きっと妹は受話器を耳にして、部屋をウロウロして。
混乱してるとき、しかも夜の電話は危険。
悲観的になりやすいし、感情的にも良くは無い。
ましてやミズキは、鬱病とパニック障害がある。
「ミズキ、母さんは心配だから怒ったんだよ」
「…ぅ、ん」
「確かにミズキは門限破ったけど、反省したよね」
「し…、た」
「それならそれ以上自分を責めるな」
納得したのかしてないのか、聞こえるのはすすり泣く声。
「ミズキ?大丈夫だよ」
「ぅ、ん…」
「大丈夫、また母さんとこ行けば普通だから」
「うん…ごめん、お兄ちゃん」
だいぶ落ち着いたと見える。
一時的にパニックを起こして電話を寄越す。そして必ず謝る。
仕方ないこと、こっちは全く苦じゃない。
妹のことだし、迷惑だなんて考えてない。
だけどアイツは、突き詰めて悩んで泣きながら電話をかけて、
そんな自分を恥じてまた泣いて謝って。
不安になることないよ。
俺はアニキとして、お前の話はずっと聞くよ。
泣きながらでいい、支離滅裂でもいいから、
誰かになにか吐き出さないとお前、
行き場が無くなるように感じちゃうんだろ?
聞くよ。俺が全部聞くから。
大丈夫、泣きながらの電話も、受け止めるから。
お兄ちゃんは傍にいるよ。
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