「ねー、あんた俺んこと嫌いでしょ」
だったら何。
いきなり人ん家押しかけて来て?
雄也いないっつったのに部屋に上がり込んで?
勝手に冷蔵庫開けてビール飲むお前を?
嫌わない理由がどこにあるってんだ。
…そのビール、雄也に買っといたやつなのに。
今日はとても暑いから。
ひんやり冷やした、雄也の、好きなビール。
疲れて帰ってきたら、真っ先に差し出そうって。
思ってたのに。
そんで、雄也が「さんきゅ」って
その笑顔が俺は好きで、見たくて…。
買って冷やしといたビール、なのに。
「俺は結構、あんた好きだけどな」
「……帰ってくんない」
「あーその眼良いわ、雄也が惚れただけあるね」
馬鹿らしい。
もともと惚れたのは俺の方だっつの。
大体、今の眼は多分、俺はお前にしか向けてない。
こんな嫌な奴、なんで存在するんだろ。
早く
「っ…早く帰ってよ」
「おっと彼女からメール!これからデートだ!じゃな!」
騒々しくケータイをポケットにしまって、
残りのビールを一気に飲み干し、
立ち尽くす俺の横をすり抜ける。
背後でけたたましくドアの閉まる音がした。
突然の静寂に握った拳が戸惑う。
テーブルの上には空っぽのビールの缶。
泣きたい。
なんなんだアイツ。
なにがしたいんだ。
俺は何に対して怒ってるのか、泣きたいのか、
自分でも分からなくなってそれがさらに痛くて泣きたい。
…雄也のビール、買ってこなくちゃ。
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